迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説

     5の後半


   
の前に、前回までのあらすじ おいおい


ひょんなことから知り合ったという少女から、
ちょっとした混乱も重なってのこと、
パン職人として匠級の存在と勘違いされた挙句、
弟子入りしたいと懇願されてしまったイエスであり。
その報われぬ境遇に同情したばかりという空気とか、
彼の奇跡が生んだパンが、
そこも知らないまま放置していたことになるが、
実は素晴らしく上質の出来だったこととか。
何より大きかったのが、
小さくか弱き者を、聖人として強く撥ね除けられない、
彼らの困った属性とかが幾重にも錯綜してのこと。
それは出来ないと強く言えないまま、
とりあえず出入りすることを許してしまった格好になっていて。

 このままでは、ずるずるとなし崩し的に、
 ロバのパンならぬ イエスのパンの店を開く日も近いかも。



 “………じゃあなくて。”(失礼しました)



実家からの出奔状態になっているさんだというのが、
とりあえず最優先で何とかせねばならない問題で。
さりとて、本人の意思はなかなか揺るがぬらしいので。
そこへも駄目押しした格好になった自分たちが、
出来ることにて頑張ってみましょうと。

 “昔だったら家長の言うことは絶対だったし、
  家業を継ぐことも 当たり前な流れだったのだけれども…。”

今時の傾向という艱難にも阻まれつつ、
慣れない風潮の中、それでも手探りで始めてみた彼らが、
それにしては画期的だろう、
今時のツールを使ってみようと手掛けたのが、

  オンラインゲームの世界に身を投じるのがご飯より大好きという、
  ちょっと奇矯な“匠”を演じて見せて、
  夢多き少女を辟易させよう大作戦、で

今やオーソドックスな鉄板の舞台と化してもいる、
デーモン・ハンター オンラインの戦場、
ヴィラスーラ平原へ
弓を扱う戦士としてログインしていたイエスの元へは、
彼の弟子にして、このゲームの戦さ仲間でもある
ペトロと弟のアンデレも加わってくれており。
昨日、思い切り気迫負けしていたイエスだけでは心配だったが、
現実世界よりかは
“不思議要素”が廉売されても慌てないでいい舞台だということに加え、
そんな頼もしい援軍まで揃えてのこと。
さあかかってらっしゃいとの(?)準備も万端。
彼女が日頃の足場にしているところから移動してくるのを
てぐすね引いて待っていたお兄さんたちであったのだが……。


 【 お待たせしました。】


ゲーム内での会話のためのテキストボックスが、
思わぬタイミングで開いたものだから、
同じコマンドエリアに居合わせた一同は
何が起きたか計りかね、え?え?え?と 慌てるばかり。
3人も居合わせたのに…ブッダも目も合わせれば4人で注意を払っていたはずが、
何処からか駈けて来たらしき彼女に
誰も気づかなんだとは不覚もいいところ…だったのだけれど。

 【 え?】
 【 あっ!】
 【 …何だこりゃ。】

他の利用者も三々五々いる平面を、水平に見渡していても実は実は無駄だった。
何しろ彼女は、遥かに広いこの平原を空から渡って来たのだから。

 【 こ、これはっ。】

確かに、マップの中で長距離を移動する場合に備えての、
ツールというか手段というかの中には、
空を往く乗り物、飛行船も用意されているゲームじゃああるが。
それを使うにはある程度のレベルまで上がっていることとか、
乗船には金貨が要ること、
そして何より、波止場という決まった場所の間を移動するという形でしか
利用出来ないと限定されており。
フラグを立てておいた土地や町にしか瞬間移動が出来ないとする
個々人が装備する移動魔法より融通が利かない。

 “まあそれは、途轍もない人数で共有しているゲームだから、
  システム上 仕方がないのでもありましょうが。”

今時は公園や突堤なんかへも配達してくれる、
宅配ピザやデリバリーを見習えと、
無茶を言う人がいたら見せてあげたい離れ業。

 【 …それって。】
 【 大怪鳥チョコポンじゃあ…。】

ばっさばっさと大きく翼を羽ばたかせ、
グラフィックのぎりぎり限界な遥か上空から
彼ら3人のアバターが立っていたコマンドエリアへ舞い降りた存在。
すわ、エンカウントかと、
戦闘状態に入ったことを示す暗転を待ったが、
それはまったく起きぬまま。

 【 すみません、お待たせしてしまって。】

凶悪な攻撃モードの顔しか知らなかったが、
平素のお顔は…某キッズ向け英会話番組に出てくる
黄色くて背の高い直立鳥を思わせるよな、
結構 愛嬌のある風貌をしておいでの大怪鳥。
そうか、だから凄まじい強さの怪鳥なのにそんなふざけた名前だったかと、
今やっと納得がいった、漁師兄弟がぼうぜんと見守っておれば。
かわいらしい口調の声かけがテキストボックスへと打ち込まれ、
大人しく直立したままの大物怪鳥の羽毛を掻き分け、
ひょこりと現れた人影が。

 【 あ、もしかして ちゃん?】
 【 はい。お待たせしてすみません。】

ペコリと頭を下げる所作も愛らしい、
ご当人と年齢層や風貌をちゃんと合わせたアバターさんであり。

 “そうだった、
  バタバタッて始めたから訊いとくの忘れてたけど…。”

中には“自分の理想の姿”という風貌のアバターで
参加しているお人もいるゲームであり。
特に禁止されちゃあいないことだが、
オフ会で本人と顔を合わせたときの破壊力がまた
半端ない場合が多々あるそうで。(恐るべし……)こらこら
どこのプロレスラーですかというような むくつけき猛者や、
実はこういう人がタイプなんですぅvvという、
銀髪美形の吟遊詩人とか、
ボンテージ姿のグラマラスな調教師とかが現れたらどうなってたかと……。

 【 ……ていうか、その装備は一体?】

よーしよしよしと、
さん自身のお顔くらいある大きなクチバシを撫でてやると、
皆を驚かせた怪鳥は キケイッと一声鳴いたのを最後に、
羽ばたきながらパッと姿を消してしまったが。
後へと居残ったお嬢さんの衣装というか武器や防具が
ちょっと見ないタイプの色々で。

 【 …か、かわいいvv】
 【 つか、パネェ装備っすね。】

聖人でもないのに突然の“降臨”を果たしたということへの驚きもどこへやら。
さすがは日頃からテンションが軽やかというか柔軟なイエスの弟子たちで、
いつまでも引き摺られずの切り替えも早い。
そんな彼らへは の方でも初の顔合わせになるせいか、

 【 あの、こちら様は?】

イエスのアバターはPC画面で確認していたらしかったが、
自分がそちらへ合流する作業中に現れた格好の彼らだというの、
さすがに見てはいなかったらしい嬢が、
彼らと親しげなイエスへと
PC画面の内と外とで問いかければ、(ややこしくて すいません)

 【 ああ、彼らは私のネトゲ仲間なんだ。】
 【 初めまして、ぺとろんっす♪】
 【 俺は あんでれっついます、よろしくっすvv】

白銀の甲冑姿の長身な戦士と、
すすけたフードにどくろの首飾りという衣装の魔導師と。
普通の日常の中で、
しかもしかも本名は伏せてという格好で紹介されたなら、
まずは えっと引くかも知れぬ怪しさだけれど。
そこはこういうゲームにおける常識のうち、
傍らにいるイエスの態度も友好的だったので、
さして怪しむまでもないと思ったのだろう、

 【 こちらこそよろしくです。此処では“ん”ていいますvv】
 【 あ、そういやそうだったね。】

だというに、
さっき思い切り“ちゃん?”と確かめてなかったか。
自分だとて“いえっさ”と名乗っているのに しまったことをと、
アパートのお茶の間にても、
隣り合わせでゲーム参戦中のお嬢さんへ
直接“ごめんね”と頭を下げてるイエスだったりし。
いえいえ、お気になさらずと、
高速でかぶりを振って見せただったのが、
思い切り良すぎて目眩を起こしたか、
そのままふらりと仰のけざまに倒れ掛かったの。
お茶でもどうぞと流しから運んで来ていたブッダが
大慌てではっしと受け止めるという、一連のミニハプニングもあってののち、

 【 ところで…話を戻しますが。】

本来は見えないはずの騒動だったが、
ブッダの意識が彼らのコマンドエリアへつながってた関係か、
わっ、大丈夫? ちゃんとか、
首の振り過ぎレス、すいませんとか、
しばらく横になってるかい?とかいうやりとりも届いてのこと、
何があったかは薄々気づいていたペトロたちだったため。(苦笑)
微妙に放置とも言えずのこと、
さして気まずくもないまま話を戻して訊いたのが、

 【 んさんのその装備、もしかして…。】

基本、様々な悪魔を倒すゲームなので、
参加している同士が直接剣を交えるような機会も滅多になく。
なので、自分のレベルや装備やステータスを中心にしてしか、
スキルや職種(ジョブ)には関心を向けないプレイやーも多い。
しかもしかも、このゲームの近年の進化というか ノリというか、
戦士や僧侶、格闘家に魔導師といった大まかな職種それぞれの中で、
更に細分化されたスキルがどんどんと枝分かれしての増殖中だそうで。
主催のソフト会社が利用者へのアンケートなどから新たに増やしたスキルは、
もはやすべて網羅するのは至難とまで言われているほど。
それを想定していても、
彼女のいで立ちは なかなか見ない恰好と言え。
衛士風のダブルボタンに詰襟という上着や、
膝丈のブーツと肩から装着されたハーフマントというのは、
剣や胸当て、楯で武装する女性剣士ぽいのだが、
彼女が手にしているのはどう見ても、

 【 鞭、ですね。】
 【 鞭っすね、】
 【 うん、鞭だ。】

 “何でそこだけ連呼でしょうか、皆さん。”

何で引っ掛かっているのかが心底判っていないブッダが呆れておいで。
鞭と言っても乗馬用のそれで、尺も短いコンパクトなもの。
よって、魔法使いのバトンのように、振るうだけなアイテムかも知れぬ。
そういやキリスト教には、
自身への虐罰に、房状になった鞭で自分を打つというのがあったようなと、
筆者がおぼろげな知識を 地引き網にて浚っておれば、

 【 女王様?】

こらこら誰ですか、そんな危ない方向路線を想起したのは。
甲冑戦士の寝言へギョッとしたのが魔導師さんなら、

 【 え? 女王って、英国とかフランスとかの?】

そういうことには、ブッダ同様 まだ明るくなかったか。
弓戦士のイエスがキョトンと小首を傾げており。

 【 女王が装備するのは、錫杖か称号授与式の剣でしょう。】
 【 そそそ、そうっすよね。兄さん、勘違いしちゃあ不味いッス。】
 【 はっ、そうだった。】

そうそう、そうだよね。
眼前へ跪いたる者の双肩へ、
剣の平もて叩いてやるのが騎士の称号を授ける儀式。
女王様が何か装備するとしたなら、
そのための大剣じゃないとねぇ。(冷や冷や…)
妙なところで(妙って)健全な師匠を誤魔化しつつ、
我に返った漁師兄のややご無礼発言も、
聞こえていたか、いやさ通じていたものかどうなのか、

 【 そうなんですよね、
   このジョブを選択する人って少ないみたいで。】

ついつい危ない発言を誘ってしまった得物の鞭を、
端と端とで両手もちして、きゃんvvと照れて見せるお嬢さん。
そんな、むしろ(むしろ?)あどけない所作を見ていて思い出したか、

 【 あ、そっか。
   それって“ハンドラー”っすね?
   しかも、剣士から転職した。】
 【 ピンポーン♪】
 【 ははは、はい?】

ある意味、マニアックさでは師より兄より深く模索中なのか、
嬢のジョブを、装備だけにてピンと来たらしいのがアンデレで。

 【 はんどらー?】
 【 はいvv 和名では調教師です。】

さっき彼女が乗って来た怪鳥も、思えばいいヒントだったわけで、

 【 他のゲームでいやぁ“召喚師(サマナー)”みたいなもんで。
   戦闘中にぎりぎりで倒さずに手なずけたモンスターを、
   1種に1頭ずつ仲間に出来るんスよ。】

このゲームに出て来る戦闘対象は悪魔が大半ではありますが、
ちょこちょこ紛れてる使い魔をね、と。
そこまで詳しかったアンデレへ、

 【 でも、レベルアップのためを思えば、
   強い使い魔を追い詰めといて
   でも倒さないというのはなかなか難しいからって、
   選ぶ人は少ないらしくて。】

そのせいか、装備品の得物も魔導師さんのと併用化とか、
どっかぞんざいなんですよねと、
自分の選択の奇抜さを照れるような物言いをする彼女だが、

 【 いやいや、なんてアガペーあふれる職業でしょうか。】

殺生を回避し、頼もしい仲間を増やすなんて、
そんな“つくもん”を生み出すような(ちょっと違うぞ)ジョブがあったとはと、
感動もひとしおらしいイエスがグラフィックス上でも目を潤ませており、

 【 職業に貴賎無しとは言いますが、
   そのように崇高な職を選ぶあなたの心根へ、私は感動しきりです。】
 【 え、いやあの…。はい光栄です、イエス先生vv//////】

手に手を取って相手を認める発言連発と来た いえっさ様へは、

 “イエス様、その子を失望させるんじゃなかったッスか?”

やはり冷静なアンデレが、おいおいおいと胸の内にて突っ込みを出しており。
一方で、それが漏れ届いたブッダがハッとして、
自分もまた目尻にうっすらと感動の涙を滲ませていたの、
慌てて拭っていたりする始末。(う〜ん)
このままでは このグループ全体から
慈愛の後光まで射しかねないと危惧したか、

 【 あ、それじゃもしかして。イベリコブーとか呼べるんじゃあ。】
 【 呼べますよ? 黄色のですか?ピンクのですか?】
 【 ピンクのも手なずけてるんスか?】

空気を変えようとしたアンデレから、何だか急に専門的な会話が始まっており、
ピンクのと訊いて驚いたのは、だが、ペトロの方。

 【 何なに、何の話?】

一人、正確にはブッダもなので二人だが、
話が見えていないイエスへは、アンデレが説明を担当し、

 【 戦闘にも滅多に出て来ない、
   はぐれメタルばりに遭遇率の低い使い魔のことッス。】
 【 そんなのまで手なずけてるのかい、彼女。】

くどいようだが、そのまま倒したら莫大な経験値がついての
レベルもどんと上がるのを見切って、
敢えて手飼いにするのがハンドラーだとか。

 【 イベリコブーっていうのは、豚の姿の使い魔なんですが。】
 【 今 呼びますね、とっても可愛いんですよvv】

自分のジョブがこうまで受け入れられたのは初めてか、
何だか…昨日の彼女へ起きた感動を、お浚いしているような流れとなっている中で。
装備品のポーチの中から、いそいそとドングリの実を取り出すであり。

 【 黄色のは、パーティー全体に効くステータス回復薬のドングリを、
   フィールドからダース単位で探し当てるんスが、
   ピンクのは何と、あのトリュフを見つける能力があるんスよ。】

 【 えっ。あの幻のキノコのトリュフをかい?】

訊いた途端、そういう反応はおかしいのか、いやいやいっそ相応しいものか、
妙にシリアスなキメ顔になったイエスであり。一方で、

 “キ、キノコ…。”

何でそんなに衝撃を受けているんだろうかと、
そのギャップにこそ驚いたらしいのが、傍観者席のブッダだったけれど。

 “あ、でも そういえば…。”

イエスとその仲間たちの、このゲームでの活動目的は、
悪魔退治より珍しいキノコを収集することではなかったか。
自分もまたキノコには嬉しかないが縁があって覚えていたブッダだが、

 “あ、何か 嫌な予感が再び…。”

妙に既視感のある流れだと、気づいたときにはやはりやはりもう遅く、

 【 そうか、先生がこのゲームをなさっておいでなのは、
   パン作りをなさる上で、
   キノコの菌から発酵をという
   奇特なインスピレーションを得られたからなのですね。】

 【 そそそ、そんなところかなぁ。】
 【 凄いですっ、尊敬しますっ。】

あああ、少しくらいは失点がつくどころか、
何て深いお考えがおありかと、ますますのこと尊敬されてしまったよと。
事情を知ったる参加者 皆して、
お顔に青筋を降ろしてしまった一幕だったのでありました。









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 *ちなみに、
  トリュフはキノコ好きでなくとも欲しがる人の多い希少なアイテムで、
  薬効はパーティー全体の全回復と死者蘇生を、
  しかも3ターンもやってのけるそうだし。
  そんなためかごくごく希少なブツとして広く認定されており。
  ゲーム内の市場に出ようものならば、
  町一つ買えるほどの金貨と取引されるという。

  《 ゲーム外でも、どうやって取り交わせるものか、
    数千万単位で取引されているとかどうとか。》

  《 おっかない…。》
  《 煩悩の実ですね、そりゃあ。》

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